DEEP IMPACT YOGA JOUNAL 7/8月号(2002)より抜粋
Linda Knittel
7年前、ヨガのインストラクターであるSianna Shermanさんは色々なヨガのスタイルをブレンドして練習している時、1990年からもつ坐骨神経痛が我慢できないほどひどく痛み始めてしまいました。そして、ロルフィングがどういうものなのかわからないまま、ロルフィング10シリーズを受けることを決めました。「毎回セッションが終る度に私は家にすぐ帰って色々なポーズに挑戦しました。そして私は自分のからだが、もつれたものがほどけていくような感覚に驚きました。毎セッションが私のからだを探求するための新しい層をオープンにしていったんです!」と彼女はいいます。
ヨガの練習と3ヶ月のロルフィングを通じ、彼女の坐骨神経痛はなくなり、その後再発せずにきています。最近では、彼女はフルタイムで全国的にも、そしてヨガが急速に成長しているシンシナティーでアヌサラヨガを教えています。そして彼女は機会さえあれば彼女の生徒にもロルフィングをすすめています。彼女は「ロルフィングの効果はびっくりするほどヨガの練習に影響を与えました」と言います。
ロルフィングはボディーワークのアシュタンガヨガのようなものだと言われます。(中略)多くのヨギーニは、からだと心の状態がより安定している場所へと導くことを邪魔する色々なからだのアンバランスを正すことをロルフィングは助けるものであると見出しています。Shermanさんのようなアドバンスヨギーニにロルフィングのような身体統合法が大きな影響を与えるのは簡単に想像できますが、まだ練習し始めたばかりの人にはどうなのでしょうか?ロルフィングはそんな人々の練習にも変化を与えることができるのでしょうか?それを調べるため、今回は私がオレゴン州ユージーンのロルファーKaren Lackritzさん(ロルフィングのインストラクターでもあり、アヌサラヨガのインストラクターでもある)から何回かロルフィングセッションを受けることを決めました。
(中略)
ヨガとロルフィング
多くの場合、この、バランスがとれた状態にからだを戻すことを手助けする過程には、腰痛や筋肉の張りなどの問題が改善されることも含まれます。ロルフィングは偏頭痛から線維筋痛症などをうまく緩和するものとして利用されています。それらの逸話は驚くべきものですが、ロルフィングの創始者であるアイダ・P・ロルフ博士がこの技術を生み出した時、肉体的な問題を軽減することが彼女の目的ではありませんでした。ロルフィングのインストラクターでもありカリフォルニアでワークを行うMichael Salvesonさんは「ロルフ博士は個人の発展を探求するものとしてロルフィングを見つめていました。その点で私はロルフィングはヨガにとても似ていると思います」と言います。
「ヨガを練習する多くの人々がロルフィングにひかれる理由は両者ともに身体のインテグリティーをするものだからでしょう。多くの意味で、ロルフィングはヨガの理論の表現をボディーワークの形にしたものだと思います。」と、多くの自分のヨガの師匠や生徒にロルフィングを行うLakritzさんは言います。
両者の類似点は10シリーズの始まりから現れます。呼吸1つとっても、あらゆるヨガの練習の基礎であり、ロルフィングシリーズの焦点でもあります。Lakritzさんは「(10シリーズの)最初のセッションでは、ロルファーは肋間筋や肺をおおう膜に働きかけるために、直接胸郭にワークをします」と言っていました。
(中略)
私のセッションが終った時、私生活でもヨガの練習でも、確実に、よりグラウンディングし自信がもてるようになりました。私の姉はそれを何かがシフトしたと表現し、私の恋人はその変化を穏やかさが増したと表現しました。ひょっとしたらこれはただの偶然かもしれませんが、今ではヨガのポーズは安らぎと共に行えるようになり、呼吸はとてもリズミカルになりました。股関節は以前より開き、バランスはより安定し、心はクリアになりました。このような結果は素晴らしいロルファーでないと保証はできないかもしれませんが、ロルファーはきっと“柔軟性はからだのバランスが整う時にやってきます”と言うでしょう。
この記事の著者Linda Knittelは栄養上人類学者であり、オレゴン州ポートランドをベースにしたフリーランスのライターです。『Soy Sensation』の作者でもあります。
※この記事はBODY BY ROLFINGによって翻訳されました。
頭をなくした男
Robert Schleip, アドバンスロルファー・ロルフムーブメント・プラクティショナー
私のクライアントのジョン(40歳。外科医)はプールで泳いでいる時に、ある子供が飛び込んだ際に彼の背中にあたり、首がムチウチになりました。その時には植物状態、感情反応などの症状も出ましたが1週間の入院ですむことができました。その後ムチウチも良くなり楽しく活発に生活していたのですが、不運にも2年後に車の荷台から落ちてきた荷物にまた頭をぶつけてしまいました。あざはできましたが、脳震盪などの症状はまったく出ませんでした。しかし、それ以降、彼はドアをはじめ、照明、窓、ドアのフレームなどに次から次へと頭をぶつけるようになってしまったのです。それと同時に、彼がバスケットをする時のエネルギーが減ってきているように本人は感じていました。
何回かのロルフィングセッションを通じて彼の体の重力下でのからだ全体のバランスは改善されてきました。が、頭を頻繁にぶつけてしまう癖によって、上半身をリフトするという感覚をなかなか保つことはできなかったのです。
(中略)
ある日私は、人間と特定の大型類人猿における皮質のボディーイメージの発展についてのいくつかの最新リサーチを見直しました。若いアメリカの霊長類学者Daniel Povinellによるいくつかの興味深い記事に特に目をひかれました。行動学は、人間、チンパンジー、オランウータンだけが身体的自己概念能力を発展させると示しています。自己概念とは、例えば、自らの体重、大きさ、形、空間内のオリエンテーションなどの自身の体の精神的描写(イメージ)です。この内なるボディーイメージは樹上で生活をするチンパンジーやオランウータンが、崩れやすい林冠の中、固定観念的ではない移動手段を使って重い体を動かしていくことを可能にします。通常林冠で生活しない小さい猿やゴリラは、からだの部位個々の動きを組み合わせて活動し、自己イメージ機能を発展させません。人間は通常18~24ヶ月でボディーイメージの最初のサインを見せます。自己イメージとして鏡のイメージに反応し始める時です。
私はジョンのオリエンテーションの問題は内なるボディーイメージの欠陥から起こっているのではないかと思いました。ひょっとしたら二つの初期の怪我は彼の脳の潜在意識化のボディーイメージから“彼の頭をなくした”のかもしれません。多分、空間の中で彼の動き方を計画しモニターしている脳の部分での内なる地図は彼の上半身の軸の機能的で適切なイメージを欠いているのかもしてません。ジョンは解剖学上ではなく、彼のイメージの中で頭を失ったのでしょうか?そして、もしそれが本当であれば、どうやって私たちロルファーは彼のボディーイメージに頭を再統合することができるのでしょうか?ただ彼の頭や首を触ったりマッサージするだけではそこまでの助けになりません。
(中略)
ひょっとしたら私は、(私の父が、私がスキーの板を持ち歩く時に先端を人や物にぶつけないように「スキーの先端に常に意識を保ちなさい」と注意し、そうすることでぶつけなくなった方法と)同様の方法で、ジョンの頭を再統合できるかもしれないと思いました。最初はヘルメットをかぶって頭への意識を高めるエクササイズをしようと思いましたが、結局、彼の家の天井から風船をつるすのはどうかという話になりました。そうすることで、彼は風船にぶつけても痛みはなく、意識を高めていくことができます。
(中略)
1週間後、彼はすばらしい笑顔と共にセッションに訪れました。彼は天井から風船をつるすだけでなく、幼い娘と風船と頭を使ったゲームをするようにしていたそうです。驚くべきことに、その1週間、彼は一度も頭を打つことも、あざを作ることもなく、そのように過ごす1週間は彼にとって久しぶりだったのです。それに加え、バスケットボールをしている時の活力も戻ってきました。
ジョンも私も、バスケットボールでの活力の復活は彼のボディーイメージの中に“頭”を再び取り戻したことに関係しているだろうと推測しました。とても簡単なエクササイズと娘とのゲームは、彼の脳に彼の体の潜在意識的イメージの中に頭を再統合することを可能にしました。これは道理にかなっています。もしあなたがジャンプをしようとした時、上半身の軸のてっぺんに予期せぬ6kgの重さのものがのっていたら、あなたのジャンプの加速力がゆっくりになり、正確性が損なわれる大きな理由になるでしょう。
その後彼の改善はとても安定していました。次の何週間も彼は頭をぶつけたり、あざをつくることはなく、バスケットボール時の活力もそのままでした。その後のセッションは彼には特に必要ではありませんでした。
なんという話でしょう!これは私のキャリアの初期に私のロルフィングの師の一人であるPeter Melchiorがプラクティショナーとして私に伝えた言葉を思い出させます。
“ひょっとしたら、何よりも‘その人のからだについてのその人自身の感じ方’が私たちのトリートメントに触れることで、人々は変化し、そしてその時からだ自身の身体的変化が結果としてあらわれるものなのかもしれない”。
Structural Integration/2006年9月号より抜粋
訳者あとがき:
例えば一度交通事故をすると、その時ぶつかられた方向からまた怪我や事故にあいやすいと言われています。それと通ずるところがありますね。
※この記事はBODY BY ROLFINGによって翻訳されました。
ドイツ人ロルファーでもありリサーチャーでもあるRobert Schleipのリサーチ記事より抜粋。
手根管症候群と反復性ストレス疾患Siana Goodwin, 公認アドバンスロルファー
Siana Goodwinは1980年に公認ロルファーになり、1983年にアドバンスロルファー、1997年にロルフムーブメントプラクティショナーになりました。1992年から1998年にかけて、彼女は世界の大きな補聴器製造会社の1つであるスターキーラボラトリーInc.において、反復性ストレス疾患の軽減と予防をするコンサルタントとしてロルフィングを行っていました。全米そしてブラジルにおいて、肩複合体や腕の問題への彼女のアプローチ法を教え、今現在もアメリカのミネソタ州でロルフィングワークをしています。
私がスターキーラボラトリーでロルフィングを始めた時、手根管症候群に対してとても限られた見解しかありませんでした。多くの人が考えるように私も手根管症候群は正中神経がもっとももろい手首のみに問題の全てがあると考えていました。ロルフィングを続け、さらに勉強するにつれて、手根管症候群や他の反復性ストレス疾患(腱鞘炎等)の様々な異なる要因を見つけました。
(中略)手根管症候群の特有のコンディションは正中神経の活動の衝突です。手根管症候群の有無は神経の種々の刺激の伝達力を決める筋電図検査によって確認されます。神経の衝突は手の痛みやしびれ、そしてそれだけではなく手の存在筋、特に屈筋とそれとは反対の親指の筋肉の衰えも見られます。手根管症候群のひどいケースでは筋肉の萎縮もみられます。
しかし、中には手根管症候群の攻撃を先行できる状況もあり、これらもまた痛みや無感覚の症状を生み出します。通常それらは血液を制限してしまう長期に渡る筋緊張によって起こります。血流が制限される時、筋肉や神経が、修復に必要な栄養を受け取れないだけでなく、通常の筋機能からうまれる代謝産物の移動も制限されます。そのまわりの組織にうまれる水腫(浮腫)もその辺りの圧や緊張を高めてしまいます。多くの反復性ストレス疾患(腱鞘炎等)の問題は、緊張→血流制限→水腫→そしてそのうちシビアな問題へと導いてしまうさらなる動きの制限、というサイクルの中で発生します。
反復性ストレス疾患(腱鞘炎等)の問題を生み出す筋緊張は、反復性の動きや精神的ストレスによる体と感情に影響する出来事によって起こります。私の経験では、すでに神経が傷つけられていたり、手根管症候群が完全に発展している場合、どのようなボディーワークも直接的にその症状を軽減するかということに関しては、最小限の助けにしかなりません。しかし、反復性ストレス疾患(腱鞘炎)等を引き起こす小さな怪我の長期にわたる繰り返しの中では、緊張や水腫を減らし、血流を高め、反復性ストレス疾患(腱鞘炎等)の症状を軽くする異なる動きを促進することにおいて、ボディーワークは多大なる助けとなるでしょう。
ロルフィングは、この種のワークに対し特に優れています。なぜならロルフィングはただの症状の軽減の為だけにワークするのではなく、ロルフィングの重要視するところは動きの癖(パターン)や体全体の緊張を改善するところにあるからです。
※この記事はBODY BY ROLFINGによって翻訳されました。
~Tessy Brungardtとの対話~
※訳者注※
この記事はStructural Integration, September 2008の中で紹介された
公認ロルファーCarolyn Pikeによる公認アドバンスロルファーTessy Brungardtへのインタビューからの抜粋。
音楽家にとってのロルフィングの利点などが紹介されていますが
今回はTessyがジストニアと戦いながら両手でのピアノ演奏復帰したレオン・フレイシャー氏のことについて話している箇所を紹介。
*
(レオン・フレイシャー氏の件で)私がシェアできることは全て公表されており、それに対して付け加えることも新しいことも何もありませんが、私たちのワークとの関係についてのメインポイントを再び述べ、未だある困惑を明確にしたいと思います。
今から話すことは短く、多くの興味深い詳細な説明を省きますが、きっとそれらは様々な記事で見つけることができるでしょう。
レオン・フレイシャーの右手のジストニアは1960年代に現れはじめ、あまりに深刻で、彼の両手によるピアノキャリアに終止符をうたせることになりました。その当時ジストニアは知られておらず、話題になることもなかったのです。彼は様々な治療、技術、そして薬を試しましたが、どれも効果はありませんでした。彼は彼のキャリアを続け、彼の音楽への気持ちを表現し続けました。そして同時に彼は、全てのフラストレーションを乗り越えながら、診断や解決策を探し続けたのです。
彼が試した多くのものの中にボトックス注射とロルフィングがあります。彼が初めてこれらを試した時、彼のジストニアには何も変化は起こりませんでした。ボトックスは彼の手をリラックスさせるのに多少の効き目はありましたが、その手でピアノを弾けるようになるには、ほど遠かったのです。ロルフィングも確かに彼のからだの構造の手助けにはなりましたが、彼の右手は何も変わりませんでした。
その後1995年、彼は彼の奥様を通じて私のところへいらっしゃいました。私はとても長い時間を彼の右腕と右手にとても具体的なワークをしました。変化は少しずつ増えていき、彼は演奏が以前よりもできるようになり始めるのを可能にしました。
そこで彼は再びボトックス注射に挑戦するのです。この時は、からだの組織がボトックスに対して変化を起こすだけの柔軟性ができていたせいか、注射は彼の右手での演奏を助けていきました。
彼にとってはロルフィングとボトックスのコンビネーションが最も効果があったのです。彼の腕がよくなってくるにつれ、私は彼のからだの他の箇所へもワークを施せるようになり、常に動きのパターンに働きかけるようになりました。そしてこれからも私達は共に歩んでいくでしょう。
これだけ覚えていてほしいのですが、ジストニアは脳の障害であり、治療法はないのです。彼が私達のワークから得たものは、彼の右手に演奏を可能にするのに十分であった症状の改善です。奇跡のようで、実際本当に注目に値することですが、その奇跡はこのケースでは明らかに制限されています。
彼は多くの曲を美しく演奏できますが、全てが昔のように演奏できるわけではありません。もちろん、それでもとても素晴らしいことです。私とフレイシャー氏がした、そして現在も進行しているワークは、多くの音楽家に必要とされるワークのタイプの実例です。彼らは彼らの問題に特別なワークやムーブメント・アウェアネス(動きの意識)が必要であり、通常彼らと楽器との関係性を何らかの形で変える必要があります。ロルフィングのプラクティショナーとクライアントは共に、気長に、小さな変化に満足していかなくてはいけません。そしてメンテナンスすることが最大の手助けになるのです。
*
Tessy Brungardt:
アドバンスロルフィング・インストラクター
公認アドバンスロルファー/ロルフムーブメント・プラクティショナー
米国メリーランド州バルチモアでロルフィングをしている。
アカデミー賞ノミネート作品であるショートフィルム『Two Hands: The Leon Fleisher Story』(監督:Nathaniel Kahn)の中でフレイシャー氏の右手の復帰に関してインタビューに答えている。
Structural Integration, September 2008
※この記事はBODY BY ROLFINGによって翻訳されました。
再び感覚と共に ピープル誌(1998年2月26日号)
– 30年後、ピアニスト・レオン フライシャーは力を失っていた右手の使用を復活した –
(前略)
1964年、フライシャー(当時36歳)は彼の世代の中で最もすばらしいアメリカ人のピアニストであると広く考えられていました。その頃彼は、彼の右手小指が弱くなってくるという問題に気付き始めたのです。そのため、彼はそれまでよりも一生懸命、以前より長い時間練習するようになりました。フライシャーはその頃のことを「指が反応するのを嫌がっているようだった」と言います。フライシャー(現在67歳)はバルチモアにある彼の家のリビングルームで「実際、不本意にも指が(ピアノを弾くために)指を丸めることを拒んでいるようだった」とも話します。悲惨なことに、その後右手の薬指も同じ状態になり、その10ヶ月後には右手の残りの指も同じ状態になりました。クリーブランド・オーケストラと予定していたツアーもキャンセルし、泣く泣く他の予定もキャンセルせざるをえませんでした。その右手の回復の兆候が全く見られなかった時、彼は彼の輝かしいキャリアが突然の終わりを迎えたのだと認識しました。「私は絶望していました。自殺という言葉が心を過ぎりました。」と彼は言います。
その過程の中で医者はどう治せるのかわかっていませんでした。(彼の症状である、筋肉や組織が反復性の過剰使用によって傷つけられてしまうという症状に、1980年にようやく反復性ストレス疾患という名前がつきました)。彼の右手はとても丸まってしまっていたため、自分の名前を書くことが何とかできるくらいで、フライシャーはいろいろなセラピーを次から次へと受けました。「コルチゾン注射を打ったり、神経が脊柱のどれかによって圧迫されていないか調べる為脊柱に染色剤をいれX線で撮影したり、手の神経に針を刺し刺激を与え反応にかかる時間をみる神経誘発テストを行ったり、すべて素晴らしいものでした」。
彼はまた薬も色々試しました。パーキンソン病患者に一時解放を与えられるL-ドパ、筋肉に弛緩を起こすボツリヌス中毒を引き起こすボツリヌス菌などです。そういった通常考えられるトリートメントに効果は得られず、フライシャーは催眠療法、鍼、バイオフィードバックなどの代替医療に目を向けました。彼は数週間エルハルト式セミナートレーニング(自己啓発のトレーニング)にさえも参加しました。医者に心身の問題かもしれないと言われ、精神科医にも会いに行きました。
(中略)
そして昨年2月、13年間連れ添っている彼の妻でありバルチモアのガウチャー大学で音楽を教えるピアニストである、キャサリン・ジェイコブソン(48歳)は彼を説得してディープコネクティブティシューへアプローチするロルフィングと呼ばれるものを受けさせます。彼女はフルートの演奏の質を上げる為にロルフィングを受けていたのです。フライシャーは練習後いつも手のストレッチや休息をとるようにしていたので、彼の指の筋肉を過度に収縮させてしまっていることはないと信じていました。しかし、たった3回ロルフィングを受けた後に、彼は彼の右手が緩んだように感じたのです。彼のロルファーであるテシー・ブルンガードは「私は彼の手、腕、手首の組織を、私の指や指関節や時には肘を使ってワークします。彼の腕の組織は柔らかくなり始めました」と言いました。
(中略)
彼が両手で演ずるピアニストとしてのカーネギーホールでの成功後、手がさらに強くなるにつれて、ニューヨーク・タイムズは“彼の努力だけではなく、彼のピアノの演奏技術”を賞賛しました。フライシャーはサンフランシスコ・シンフォニーとベルリン・フィルハーモニーとの競演を予定しています。彼は彼の苦しい体験を通じて成長したと感じています。「以前はただの両手が使えるピアニストでした。しかし私の身におこったことは私の人生、意識、そして人間性を膨らませました」と彼は言います。
訳者あとがき:
今現在もレオン・フライシャーは活躍しており、今年行われたアカデミー賞ではショート・ドキュメンタリー・フィルムに彼の復帰第一弾CDのタイトルと同じ“Two Hands”という名の作品がノミネートされました。(2007年4月現在)
※この記事はBODY BY ROLFINGによって翻訳されました。
生物医学的リサーチ:細胞生物学がロルフィングに出会う
David Grimm
(前略)
ボストンで10月に開催された筋膜リサーチ学会は、身体の結合組織システムの柔組織である筋膜という、今まで重要でありながらも医学的に無視されていた組織の初の学会でした。細胞生物学から生物物理学のような広域におよぶトップ・サイエンティストだけだなく、カイロプラクターやロルファーとして知られるディープティシューマニピュレーターのような代替医療プラクティショナーも参加しました。この学会にスピーカーとして招待された、世界的に知られたオランダのアムステルダムVrije Universiteitの生体力学研究者であるPeter Huijingは、招待された時は“自分の評判を傷つける恐れを感じた”と言うほど躊躇していたにも関わらず出席を決意されました。しかし出席しスピーチをすることで、この学会が終了するまでには次回の開催を手伝うことに同意するほど有意義な時間になったようです。
この学会はニュージャージー州East OrangeにあるVA医療センターの共同ディレクターでもあるThomas Findley(M.D.-Ph.D.)の独創的な案によって開催されました。30年以上の間、Findleyはリハビリテーション医療の裏側にある科学を研究してきています。そして彼はまたコロラド州ボールダーにある、ロルファーの育成・認定をする機関The Rolf Institute of Structural Integrationのリサーチディレクターでもあります。Findleyは、丁寧に編みこまれたブランケットのような、鞘で骨を覆っていて、構造へのサポートを提供する筋膜が、患者がどうトリートメントに反応するかの大きな鍵となる役割をしていると早い時期から確信をいだいていました。しかし、“筋膜リサーチャー”であると確信できる人々がいなかったのです。
研究者の中には、筋膜異常が線維筋痛症や腰痛のような暗闇に隠された障害の原因であるかもしれないと推測するものがいました。しかし、医師団は昔から筋膜のような組織を無視し続けていたのです。医学書では筋膜という名をかろうじて挙げるくらいで解剖図からは取り除かれてしまっています。
(中略)
University of Arizona College of Medicine in Phoenixの血管生理学者Paul Standleyは筋膜の中に見つけられる主要タイプの細胞である線維芽細胞の研究について説明しました。Standleyのチームは、その細胞を弾力性のあるコラーゲンに乗せ、体にかかる反復運動緊張を模写したやり方でコラーゲンをストレッチすると多くの細胞が死滅することを発見し、またそれとは逆に、ロルフィングで使われるようなテクニックでコラーゲンをストレッチしてみたところ、より多くの細胞が生き残ったと発表しました。
(中略)
細胞生物学者はいかに筋膜細胞が力に反応して遺伝子発現を変化させるかについて発表し、また生体力学研究者は、いかに筋膜細胞と細胞外マトリックス間の相互作用が身体全体のモビリティーに貢献しているかを詳しく述べました。
(後略)
Science Magazine November 23, 2007 より
訳者あとがき:
次回の筋膜リサーチ学会は2009年にアムステルダムで開催される予定です。
※この記事はBODY BY ROLFINGによって翻訳されました。
※ロルフィング/Rolfingは商標登録されいています。
『アナトミー・トレインズとは?』
Anatomy Trains(アナトミー・トレインズ)は、筋筋膜のつながりを示すシステムであり、軟組織をマッピングする革命的に新しい方法でもあります。
これにより筋膜へのワークを通じて、筋膜組織の中にある緊張パターンを解いていく方法へと発展していきます。
アナトミートレインには12のラインがあり、それぞれに1つの筋筋膜のつながりが存在します。
それぞれの筋筋膜(これは東洋の経絡と重複する部分もありますが、実際には完全に西洋的解剖学を基礎をしています)は、筋筋膜の一連のつながりから成り立っています。その一連のつながりは、次から次へとほぼ真っ直ぐなラインを導く、切れ目なく続く筋肉や筋膜の構造です。
この方法で見ていくと、12の筋筋膜ラインが明らかになります。(鍼灸の経絡も12ありますが、それとは一致しません)
からだの前・後・体側を走る3つの“主要な”ライン、4つ目のラインはスパイラルライン、そして軸骨格から手の4つの“コーナー”へと走りそれぞれの腕を通る4つのラインです。
そして、上肢帯と骨盤帯は3つの機能的なラインを通じてからだの前後を交差し、安定されます。
最後にそれら全ての11のラインは、私達のコアであるとても複雑な“くらげのように柔らかい”深部のラインをとりまくように形成されているのです。
Asthma Free Arizona & The Breathable Body, LLC の Robert Litmanが私達の体の急速な動きや呼吸に対する肉体反応について述べている。
私達は、私達が息を吸い込む方法によって自律神経系が調整されていると認識する必要があります。私達のスピードがインプットを扱う神経系の能力を上回る時、私達は鼻呼吸から口呼吸へと切り替えます。調整システムにおいて、自律神経系の交感神経枝と副交感神経枝はバランスされています。どちらもどちらか一方をより勝ることはないのです。呼吸時に口を使うことは、“戦闘または逃亡”反応と呼ばれる交感神経系反応の上昇を誘発します。呼吸のテンポが上昇するのです。これは多くの内なるイベントを誘発するからだの生理機能にシフトを引き起こします。血液は筋肉へと転用され、内臓から遠のいていき、そして気持ちは警戒態勢になります。消化は遅くなり、腸と腎臓の括約筋は閉じてしまいます。血液凝固能力を高め、万一の怪我に備え出血を軽減させる為に、血液は濃くなります。よりたくさんの空気を入れさせる為気道を広くし、体を冷却させるために発汗作用が促進されます。肝臓は即刻なエネルギーを提供するため糖分をリリースし、筋肉はアクションに備え緊張します。突然の脅威の為のしっかりした準備を可能にするよう私達の免疫応答は低下します。
そして短期間な状況ではこれらの反応は体の通常活動の一部なのですが、交感神経系の長期に渡る活性は、交感神経系の使い過ぎを引き起こし、副腎疲労と脅威の為の準備に関わるシステムのブレイクダウンを導きます。
やがて、免疫系が低下し、風邪やアレルギー、喘息を受けやすくさせます。絶えず緊張した筋肉は筋肉内だけでなくそれらをサポートする骨や関節内で、磨耗と裂傷を現し始めます。絶え間ない緊張は慢性疲労と線維性筋痛症を導いてしまいます。腸と腎臓はそれらの機能の中で傷つけられるので、慢性緊張やシステムの警告が不十分な消化や排泄、また長期の栄養吸収不良という結果を導きます。脳が常に警戒態勢なので、良い睡眠を得ることが難しくなるかもしれません。不眠症や不穏が結果として生じます。このタイプのアクティベーションの高い要求は心拍数を高くする原因になります。休息している間も偏心や鼓動がドキドキ打つ状態になり、不安が高まりがちです。またパニックアタックを引き起こしかねません。内臓の平滑筋は緊張したままになり、これは血圧を高めます。またずっと続く血液の濃縮は、体に脳卒中の可能性をつくりだします。このリストは心臓問題とは関係のない健忘症、皮膚疾患、胸の痛みなどをも含みます。要約すると、体は抑圧されてしまうのです(生命力を与える情報や栄養から孤立してしまう)。
もし口呼吸が慢性的コンディションになったら、その傾向は気道の乾燥、鼻のうっ血、そして胸上部の制限や空気飢餓感を発達させます。ポイントは、心血管疾患の名前を無理やりつけてしまうことは、神経系がバランスを保つことを可能にするペースをなくしてしまう逆効果にもなりかねないということです。そのペースを知る為に、私達は私達の呼吸が手がかりである鼻呼吸に続く必要があります。
口のすぐ上には、呼吸口として使うのをより好まれる鼻があります。どんなに極限のレベルの活動をしていても、体は鼻呼吸をし続けるよう鍛えることができます。口と違い、鼻はフィルターとなり、湿らせ、空気や気道を温めることが可能です。鼻呼吸に常にある利点の1つは、酸素が肺の5つの葉に届けられるということです。口を開けた方がより酸素をとれるように感じるかもしれませんが、実際にはその時、上の2つの葉しか呼吸の為に使われていないのです。より多くの空気を入れる能力のほとんどは、横隔膜と胸郭の柔軟性次第です。鼻からの呼吸によって助長されるリラックスした呼吸の過程は胸の可動性を高める、より良いチャンスとなります。
口呼吸の癖を発達さえる最大の問題は、私達の呼吸性ガスがアンバランスになり、酸素供給に欠陥を生じさせることです。呼吸時の2つの主となるガスの構成成分は酸素と二酸化炭素です。残念なことに、二酸化炭素は無駄なガスとして誤称されているので、私達は体から取り除く必要があるものであると考えがちです。真実は、私達の体を健康に保つ為にもある一定量の二酸化炭素は必要なのです。最も基礎レベルで、私達の体がつくる二酸化炭素は私達の細胞内のミトコンドリアで起こっている細胞呼吸の副産物であり、血液のphを通常に保つ為に必要なのです。同様に、これは体の残りの細胞に栄養を与える為に赤血球内のヘモグロビンから放出される酸素を調整します。これを達成する為に十分な二酸化炭素が私達の環境にないと、私達は私たち自身でそれをつくり、適切な呼吸機能のためにそれを保持しなくてはいけません。
もし口呼吸や呼吸過剰(体のニーズに対して呼吸が速すぎる)癖があるのであれば、私達は二酸化炭素を放出しすぎています。このような私達の呼吸ガスの不均衡は細胞に酸素が運ばれる効果を減らしてしまっている結果をつくります。ATPとして存在する、私達の体のエネルギーの産物は酸素と糖分の代謝(最もシンプルなレベルで)であるので、酸素の流れが減少している時、私達の細胞によって生ずる産出エネルギー量を減少させます。それゆえ、疲労やシステムのブレイクダウンを引き起こします。結果として、エクササイズから回復するのに、長い時間がかかるのです。回復とは、呼吸と心拍数が正常に戻り、数秒または数分内に私達が“休息と落ち着き”ができていることを意味します。
十分な空気を得るのに口を開けなくてはならないと感じることは、内なるバランスを保つ為のあなたの体の能力よりあなたが早く動いている明確なサインでしょう。短期間ベースであれば構いませんが、長期的または毎日の習慣であるのであれば、それはよくありません。言い換えると、健康でいようと追いつこうとする為、体にとって早すぎる速度で動いているのです。訓練や意思が素晴らしい習性であるのに、もしそれらが私達の体の自然なリズムを台無しにしているのであれば、私達は困った状況にいることになるのです。
Structural Integration, December 2007より
※この記事はBODY BY ROLFINGによって翻訳されました。